2002年11月29日
要請書
法務大臣殿
(アイウエオ順)
移住労働者と連帯する全国ネットワーク
移住労働者と共に生きるネットワーク・九州
強制収容」問題を考え、子どもの学びと発達を守る熊本の会
子どもの人権連(子どもの人権保障をすすめる各界連絡協議会)
コムスタカ―外国人と共に生きる会
全国在日外国人教育研究協議会
中国帰国者の会
RINK(すべての外国人労働者とその家族の人権を守る関西ネットワーク)
入管問題調査会
日中友好雄鷹会
I 要請内容
(1) 血のつながりはなくても、家族の実情を考慮し、在留を認めて下さい
法務省告示第百三十二号(1990年5月24日)に示された インドシナ難民の家族の呼び寄せに関する「子に養子を含む」規定や 、「日本人や日本に適法に在留する外国人の配偶者、親、子(養子を含む)に随伴する親族で、その家族構成等からみて、人道上特に入国を認めるべきもの」の規定を、中国残留邦人の家族や他の定住者の家族にも適用できるようにして、その「未婚未成年でない、再婚した配偶者の実子の世帯」や「6歳以上の養子世帯」にも「定住者」の在留資格を与えるようにしてください。
(2)退去強制事由に相当する場合でも、本人や家族の実情を考慮し、在留を認めて下さい
入管法第24条の退去強制事由に相当する場合でも、子どもの就学状況、日本での家族関係や、当該外国人の在留中に生じた家族的結合等の実情を考慮し、在留特別許可を認めるなど、人道的配慮をして下さい。
(3)入国管理局の収容施設に収容されている人で裁判係争中の人には仮放免を認めて下さい
退去強制令書発付処分取消訴訟や、その他民事事件係争中等のため、長期・無期限の収容におかれている人がいます。場合によっては、1年以上収容が続いている人がいます。裁判係争中の仮放免を認める運用をして下さい。
(4)入管の収容施設には、未成年者、障害者、病気の者、妊婦、難民申請者は収容しないで下さい
在留外国人の摘発にともない、子ども、障害者、病気を持つもの、妊婦、難民申請者など収容を避けるべき人たち、収容の必要のない人たちまでもが収容されています。収容の要件を見直すなど、人道的見地から収容を避ける運用ができるようにして下さい。
II 要請の主旨
(1)について
1.「人道的配慮」に人種・国籍の差別があってはなりません
定住インドシナ難民の家族ばかりでなく、「随伴する親族で、その家族構成等からみて、人道上特に入国を認めるべきもの」に人種・国籍の差別があってはなりません。
また、「未婚未成年でない、再婚した配偶者の実子の世帯」とは、いわいる「連れ子」の世帯です。「連れ子」とは「血縁関係にない」事を強調し、「血縁関係にある実子」との間を差別する概念です。家族関係を理解する場合、血縁関係だけでなく、「養子」や「配偶者の実子」も含め家族としての実態をみていただきたいと思います。
2.規約人権委員会の見解から
「市民的及び政治的権利に関する国際規約」に基づく規約人権委員会は、一般的意見16において家族について「この語句は広く解釈されるべきである」としています。また一般的意見19において家族の概念がある種の側面において国家毎に、さらに同一国家内の地域毎に異なり得ること、それ故、この概念に標準的な定義を与えることはできない」としつつ、「人の集団がある国家の法及び実行において家族とみなされる場合には、第二三条が規定する保護が与えられなければならない」としています。そして、家族のあり得る形態の例として、核家族や大家族、未婚のカップルとその子ども、父母のいずれか一方の者とその子どもなどをあげています。
3.残留邦人の歴史的経過から
中国残留邦人は、国策により中国大陸に渡り、ソ連参戦以降の混乱期において一切の日本人親族と離別(死別)し「本邦に引き揚げることができず引き続き本邦以外の地域(中国)に居住することを余儀なくされた」(「中国残留邦人等の円滑な帰国の促進及び永住帰国後の自立の支援に関する法律」)た人達です。中国残留邦人にとってのこの半世紀とは、「今次の大戦に起因して生じた混乱等」(同法)によって失った親族を、中国人との間における多種多様な「身分行為」(縁組み)の繰り返しを通じ、ゼロから少しずつ築き直す半世紀でした。中国残留邦人が被ったかかる損害は日本国による移住計画と、戦争をその原因としています。
そうした背景の中で、呼び寄せられた中国人家族に対し「血が繋がっていなければ子ではない」とする入管の冷酷な態度は、「血が繋がっていなくても子に違いない」という暖かい心で大切に育ててもらった中国残留孤児、また中国人の妻として迎えられ命を救われた体験を持つ中国残留婦人にとって到底理解できないだけでなく、かかる血縁主義により中国残留邦人の養子世帯・再婚した配偶者の子どもの世帯を無情にも切り捨て、本邦から追放することは、中国政府および中国人民に対し「恩を仇で返す」ことにもなりかねません。
なお、1984年の日中間の口上書には「日本政府は日本での永住によって生じる家庭問題の責任を持って解決すること」と明記されています。さらに1993年の口上書では、「家族の永住に関しても必要な措置を講じ、各種手続きの便宜を図ること」「日本における法律上正当な権利を保護すること」「日本での生活・就学・学習面における便宜を図ること」と明記されています。また1994年に施行された「中国残留邦人等の円滑な帰国促進及び永住帰国後の自立支援に関する法律」(中国残留邦人支援法)には、「中国残留邦人等及び親族等が出入国管理及び難民認定法その他の出入国に関する法令の規定に基づき円滑に帰国しまたは入国することができるよう特別配慮する。」(6条)と明記されています。
4.事例について
具体的な事例としては、末尾の(事例1)〜(事例3)など。
家族としての実体、同情すべき背景がありながら、日本人(帰国した中国残留日本人孤児)との血縁関係のがない故に、「配偶者の実子世帯」や養子世帯の入国や在留が認められず、場合によっては一部不正規な手続きで入国した事例などがあります。
これらの事例は、個別事情をみても、在留を認めるべき背景と事情をもっています。
(2)について
1.子どもの権利条約の趣旨に即して
「子どもの権利条約」の第3条(子どもの最善の利益)の1には、「子どもにかかわる活動において、その活動が公的若しくは私的な社会福祉機関、裁判所、行政機関または立法機関によってなされたかどうかにかかわらず、子どもの最善の利益が第一次的に考慮される。」とされています。また同9条(親子の分離禁止の原則)の1では「締結国は、子どもが親の意志に反して親から分離されない。」としています。このような条約の趣旨をふまえ、退去強制手続には、人道的な配慮が必要と考えます。
近年、在留資格のない家族にあっても、その子どもが一定年齢日本に在留し、日本の学校に就学している場合には、その実情を判断し、在留が認められてきた経緯があります。これは日本の入管行政が、単に法違反かどうかだけでなく、人道的配慮も勘案しながら退去強制手続を進めてきたからであると理解しております。
2.衆参両院の付帯決議に即して
また、1999年入管法の改定のおり、衆参両院は「被退去強制者に対する上陸拒否期間の伸長、不法在留罪の新設に伴い、退去強制手続、上陸特別許可、在留特別許可等の各制度の運用に当たっては、当該外国人の在留中に生じた家族的結合等の実情を十分配慮し、適切に措置すること。」との付帯決議をあげています。この付帯決議の趣旨をふまえても、上記要請のような運用が求められています。
3.各国の判例
1999年7月9日カナダ連邦裁判所が下した「Baker判決」では、超過滞在であるB氏(子ども4人はカナダ国籍)に退去強制という決定を、「子どもの最善の利益」(子どもの権利条約)を援用し、取り消しました。カ ナダはその後移民法を改正。 →「カナダの出入国管理行政における子どもの利益の考慮の一端」『人権法と人道 法の新世紀』(東信堂)
ニュージーランド最高裁判所は、1993年12月17日子どもと家族を残して退去強制命令を出された男性からの司法審査請求にであるタビタ事件判決において、自由権規約と子どもの権利条約9条を援用し、当局が退去強制命令を執行するか否かを検討するさいこれらの条約を考慮すべきであるとして、当局に再審査を求めています。(Tavita事件)
オーストラリアの最高裁判所は1995年4月7日、子どもと家族を残して退去強制命令を出された男性からの司法審査請求であるテオ事件判決において、特に子どもの権利条約第3条の規定を援用し、当局が子どもの最善の利益を主たる考慮事項としてあつかうだろうと正当な期待が生じているとして、当局による再審を求めています。(Teoh事件)
4.中国残留邦人及びその家族等の置かれている現状
中国残留邦人及びその親族に関しては、いったん定住目的で出国した場合、中国の戸口簿管理制度では、戸口簿は抹消されており、退去強制されることになれば、戸口簿の復活は困難であり、生活さえできない状態に陥ってしまいます。中国側も一貫して「中国残留邦人家族の問題は、日本国内の問題であり、その更正に関しても日本政府が責任を負うべき。」との姿勢を貫いています。
5.事例について
末尾事例の(事例1)〜(事例3)について。自分の祖父母が、血縁のない中国人養父母に育てられ、あるいは日本人配偶者を得、中国人として生まれた自分は、また日本文化の中で育てられる、という体験はかけがえのないものです。いずれの子ども達も日本での学校生活に適応し、将来は母国と日本両国の良好な関係を築く架け橋となる力を持っています。
(事例4)については、正規に在留した定住者などで、刑事事件により服役した人が、日本人(中国残留邦人の同伴、及び呼び寄せ)家族と引き裂かれて、退去強制されようとしている事例です。
(3)について
1.裁判を受ける権利を保障するために
民事事件、刑事事件、行政事件で裁判を起こしている人に対しては、退去強制を見合わせるなど運用が取られてきました。しかし日本の裁判、長時間かかるものが多く、収容されたままの状態で裁判を継続することは、本人にとってはもとより、入管行政側にとっても負担となります。
また無期限・長期の収容を覚悟でなければ裁判に提訴できないと言うことであれば、法の下の平等の原則にも反します。
2.事例について
末尾の事例すべてこれに相当します。
(4)について
日本の入管法の退去強制手続の運用の基本的な考え方は、「全件収容主義」が取られてきました。しかし難民申請者、子ども、健康上の理由など、「収容に適さない」事情を抱えている人たちも収容されている現実があります。ここでは特に、子どもの収容問題と健康上の問題を指摘します。
1.子どもの権利条約の主旨に即して
子どもの権利条約第37条(b)には「いかなる子どももその自由を不法にまたは恣意的に奪われない。子どもの逮捕、抑留、拘禁は、法律に従うものとし、最後の手段として、かつ最も短い適当な期間でのみ用いられる。」とされています。これに対し、日本政府は、2000年福島瑞穂参議院の質問に答えて「第三十七条(b)に規定する『逮捕、抑留又は拘禁』とは、刑罰法規に違反したことを理由として自由をはく奪することを指していると解され、入国者収容所等に収容することはこれには含まれないと解される。」という見解をしめしました。
しかし、行政手続であっても、子どもの自由を奪うことは、本当にやむを得ない理由がある場合の、最後の手段でなければならないという解釈が、国際的には確立されています。子どもの権利委員会によってスウェーデンが1993年第一回報告書を審査されたときに、やはり外国人の子どもの収容の問題について委員会は、「外国人法に基づく子どもの身柄拘束」に懸念を表明しています。スウェーデンはこの懸念を受けて国内法の改定を行っています。
2.被収容者の健康を最優先すべき
障害者、病気を持つもの、妊婦、が収容された状態で退去強制手続きが進行し、健康が悪化した例が少なくありません。
3.事例について
(事例1)について。昨年2001年11月〜12月の摘発時の収容のおり、うち小中学校に通う子どもは4人(12才、16才、17才、17才)および障害と病気を持った母親が29日間に渡って収容されています。
III 事例集
(事例1)現在熊本在住の中国残留日本人孤児、井上鶴嗣さんの「配偶者の実子」の二世帯、孫(潘)さん一家、関さん一家が在留を求めている件。2家族で4人の学齢期の子どもがおり、人道上の配慮から、在留が認められるべき事例です。身体拘束時の子ども達4名の年齢は、男児12才、男児17才、男児17才、女児16才。2001年11月5日より自宅にて摘発、身体拘束。福岡入管にて18日間収容。子どもおよび母親はいったん釈放されるが、同年12月 福岡入管出頭時に再度身体拘束。福岡入管に11日間収容。子ども達の収容期間は合計29日間に及ぶ。現在退去強制処分取り消し訴訟で係争中。その後、関さん一家の父親、馬さんの収容は1年を越え、2002年11月16日現在でも収容が続いている。度重なる仮放免の申請は、現在も認められていない。
(事例2)現在大阪府八尾市在住の中国残留婦人、西田栄美子さんの「配偶者の実子」家族、石長春さん一家が在留を求めている件。西田栄美子さんは、先の戦争により一度日本人家族を失っており、また石長春さんには高校在学中の長女がおり、人道上の配慮から、在留が認められるべき事例です。
(事例3)中国残留日本人の「実子」ではなく「養子」という理由で大阪入国管理局から強制退去を命じられたのは国際人権規約などに違反するとして、中国籍の汪麗霞さん(38)=大阪府四条畷市、仮放免中=ら家族3人が5日、国に強制退去命令の取り消しを求める訴えを大阪地裁に起こした。訴状によると、汪さんは1981年、中国で残留日本人の門間和枝さん(58)=同府枚方市=の養子になった。汪さんは94年、門間さんの求めで、夫の柳宏さん(44)、長男の健雄さん(20)=桃山学院大1年=とともに来日。しかし、「実子」ではなく「養子」であることが判明し、2000年6月に上陸許可を取り消された。 (時事通信)[2002年9月5日]
夫の柳宏さんと門間和枝さんの「孫」の大学生、柳健雄さんが収容されています。柳健雄さんは20才の誕生日に収容されました。人道上の配慮から、在留が認められるべき事例です。
(事例4)日本に永住帰国した中国残留婦人の息子(Aさん)が懲役刑に服した後、強制退去命令を受けた。Aさんは14年前に来日した中国籍の男性(51)で、東京入国管理局に収容されている。家族はすべて日本にいる。Aさんは1998年、集団密航者の輸送などにかかわって逮捕。2002年6月に懲役4年の刑期を終え、入管難民法の規定でそのまま東京入管に収容された。中国に親族はおらず、中国籍の妻と3人の子供、4人の孫と日本で暮らしており、男性が送還されれば妻の在留資格が更新されない可能性もある。
[共同通信] (2002年8月26日)
(要請団体、代表連絡先)
高橋徹(入管問題調査会)
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